青梅線・
五日市線・
八高線のJR三路線と
西武拝島線の結節点である
拝島駅は、エキナカにはさすがにそれなりの飲食施設が存在するが、駅の外に一歩足を踏み出すとファストフード店の姿すら無く、ファミリーマート二階のやや広いイートインだけがかろうじて軽食・待機スペースを提供してくれている。関東山地が奥に控える西方に進むと直ぐに
福生市に入り、多摩川を超えると
あきる野市となる。土色と緑色が混ざった山塊の最奥に、ただ一者純白の山嶺が見えるが、あれは一体何という山だろう。
西武拝島線の車窓から望んだ時から、ずっと気になっている。
福生側を走る幹線道路沿いに、床屋がある。昔ながらの棒状二重螺旋ディスプレイが店頭で回転している、本当に昭和の風景そのままの床屋だ。ヘアサロンではなくバーバー。それはそれで別に良いのだが、その店頭に、何故だか唐突に書棚が設置され、古書が陳列されている。掲示によると、二冊百円で販売しているという。欲しいモノがあったら床屋のオヤジを呼びだして金を払えという。
そう言えば、
拝島の駅前には、古書店らしき店は一軒も見ない。昔ながらの古本屋も、
ブックオフのような新古書店も、この地域には全く存在していないようだ。そんな荒涼とした、文化果つる地において、新しい商業の可能性というか、文化の萌芽というか、そういうものが立ちあがろうとする、ここは一つの現場であり瞬間であるのかも知れない。
朝一番に、軍用の輸送機らしい機体が二機、低空飛行で付近の空を周回していった。全面が、空色に近い灰色であった。
イラク戦争の際に、対空攻撃を恐れた自衛隊機が、そのような色に塗り替えられたという報道を聞いた記憶があるが、もしかしたらその機体かもしれないなと勝手に推測した。二機は西の山地側に回って、下方向に黒い霧のようなものを吐き出して北の方へ去って行った。
そうして空には、何も無くなった。
雲すらも無い。
ただ風だけが強く、春なのにとても冷たい。
※
鴉さえ辛そうに飛ぶ冷たさの春風だけの空を仰いだ
※
美しい純白のあの山について、
ツイッターで情報提供を呼びかけてみたが、誰も教えてくれない。
夕方になって、床屋のオヤジが幟をセットし直しに出て来る。端から千切れてボロボロになっている。この辺り一帯は風の通り道になっているので、強風ですぐにこうなってしまうのだと言う。
テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学