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杉並アステロイドベルト

2013/12/26(木) 16:14:48 [詩文・俳文]

 杉並区の、JR中央線京王本線とに挟まれた地帯をバスで縦走すると、一度は必ず、錯雑した狭小な経路の不可思議な空間を通過する。場所によっては、妖気すら漂わせている。永福町高円寺の経路も、下高井戸から桜上水を経て浜田山を結ぶ経路も、浜田山と阿佐ヶ谷の経路も、蘆花公園から高井戸を経て荻窪を結ぶ経路も、そうであった。
 何故なのか?
 東京都西部においてあるべき公共交通の姿を考えれば、中央線京王本線との間にはもう一本、東西に走る緯線が存在してもおかしくは無かった。太陽系におけるあるべき天体の構成を考えれば、火星と木星との間にもうひとつ、惑星が存在していても不自然ではないのと同じように。
 しかし現実には、火星と木星との間には、惑星は存在しない。存在するのは、アステロイドベルト、遂に惑星になれなかった、無数の小惑星の集合体だ。それと同じように、中央線京王本線との間には、緯線は存在しない。存在するのは、中央線の重力に屈して荻窪に吸着した丸ノ内線と、環七において夭折したその支線だ。どうしてそのまま真直ぐに、西に伸びなかったのだろう。
 井の頭線は彗星のようなイレギュラーな軌道でこのエリアを通過していく。
 だから僕はこの地帯を、杉並アステロイドベルトと呼称したい。
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南北バスすぎ丸 浜田山→阿佐ヶ谷

2013/10/13(日) 04:31:36 [【12-13】オレンジをアップデート]

 今日は休日なので、浜田山駅前発阿佐ヶ谷駅行きのすぎ丸バスの最終便は、バス停の時刻表によると19時00分発である。街角に見えるブックオフの看板に少し心魅かれつつも、そのバスに私は乗らなければならない。夕立が上がった後の七月の空はまだまだ明るくて、浜田山の駅前も人通りが多い。
 18時47分、バスが来る。地元の人間らしき老婆が、「鎌倉街道沿いを通る阿佐ヶ谷永福町行き」のバスの有無について、運転手に問い合わせている。このバスは平日と休日でダイヤが違い、また便によっては少し経路も違っているようだ。
 さっきまで乗っていた、下高井戸発浜田山駅南行きのすぎ丸バスと比較すると、このバスの車体は、さらに一回り小さい。座席はほぼロングシートばかりである。老人の姿が多い。定刻に出発した。
 ブックオフの角を右折して、北へ向かう。しばらくは、誰も乗り降りしない狭い道のバス停を、淡々と通過し続ける。人見街道という、一応車道らしき車道に出ても、それは変わらない。冷房が強い。それが体に堪えるのか、さっきの老婆が後部座席を頻繁に左右に移動している。
 左に曲がって、浜田山小学校でようやく、別の老婆が降りた。住宅街やマンションの植込みが視界に迫ってくる。児童交通公園で一人乗る。件の老婆が降りる。
 善福寺川緑地を通る。本当にただの住宅街だ。逆方向、阿佐ヶ谷発のすぎ丸バスとすれ違う。こちらと異なり、向こうの車内にはそれなりに人が乗っているようだった。
 一転して団地エリア、阿佐ヶ谷住宅の一帯に入る。まるでゴーストタウンのような、荒廃しきった景観である。廃屋らしき団地の敷地を囲い込む、解体工事用の白い壁が冷たさと淋しさとを強調する。得体のしれないカーブをグルリと回る。街路樹等の手入れも適切になされていないのだろう、妖しく伸びた木の枝が思い切り音を立ててバスの屋根を擦る。
 ここが今回のワープゾーンだと思った。京王線沿線のどこかから、中央線沿線のどこかに路線バスで北上する時は、いつもこうだ。必ずどこか、こういう次元の狭間のような空間を一度は通過する。永福町から高円寺に向かった時も、芦花公園から高井戸を経由して荻窪に向かった時も、そうだった。浜田山から阿佐ヶ谷へ向かう今回も、やはりそうであった。
 杉並区役所前を右折して中杉通りに入った時点で、乗客は三人しか居ない。始発から終点まで、このバスの乗客が六人を超えることは一度もなかった。終点の二つ手前、阿佐ヶ谷南一丁目で、さらに一人降り、最後まで乗っていたのは、私ともう一人の男性だけであった。
 ロータリーに入っていくバスの窓から、阿佐ヶ谷駅南口のディラ前の路上を見る。私にとっては見慣れた風景だが、この角度、この高さから望むのは始めてだ。今日のその場所には、路上詩人は居ない。ドッペルゲンガーなど居ない。
 浜田山駅方面へ向かう折り返しの終バスは19時30分で、この便に限っては浜田山を通って、永福町まで行くのだった。それなりに人が乗り込んでいた。

南北バスすぎ丸 下高井戸→浜田山駅南

2013/10/09(水) 13:09:20 [【12-13】オレンジをアップデート]

 下高井戸駅北側の、甲州街道沿いのお好み焼き屋前のバス停に停車している。夕立は上がっている。まず家族連れが、次いで老人や年齢の高い母娘連れが乗り込んでくる。発車時刻にはまだ少し時間がある。車内のラックに刺さっている杉並区報が、参議院選挙を周知している。
 18時30分50秒にドアが閉まった。甲州街道をそのまま西進する。すぐに次のバス停に停まる。コミュニティバスとはいえ、さすがに近過ぎる気がする。
 交番前、下町(トヨタネッツ前)とバスは走る。普通のロードサイドの風景だ。桜上水駅前で、結構な数の人が降りる。
 誰も乗り降りしない上北沢入口で、車体は一度右折する。もう一度右折してUターンを行い、甲州街道を今までとは逆に、東に向かって走って行く。左折して、バスはいよいよ北上を開始する。幹線道路から一転して、すごい狭い路地だ。
 庚申堂。このバス停で、時間調整のためしばらく停車するという。本当に、そうだと思う。それ以外の深い意味など、特に無いと思う。近世の民俗学的世界の残滓が、雨上がりの夏の夕刻においていささかの超自然的な力を発揮したが故に、電気自動車の機構が金縛りに遇ってしまったというようなことは、あり得ないと思う。だから心配なのは、こんな狭い路地で停車してしまって、後続の車や人の通行を妨害にならないか、ただそれだけである。
 各バス停で、人々はそれぞれ乗ったり降りたりしている。塚山公園を過ぎて神田川を渡り、柏ノ宮公園下高井戸から乗っていた母娘が降車する。道の両側は何時の間にかマンションばかりで、少しずつ店舗が増えたと思うと左折して、あっけなく終点に到る。浜田山公園前の小さなバスターミナルに着いたのは18時48分。井の頭線の急行が踏切を疾走していく。
 

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