巻二十 四五一六

2010/08/07(土) 01:56:50 [万葉集の勉強]

三年の春の正月の一日に、因幡の国の庁にして、饗を国都の司等に賜う宴の歌一首

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

右の一首は、守大伴宿禰家持作る。

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巻十九 四二九二

2010/08/03(火) 01:05:27 [万葉集の勉強]

二十五日に作る歌一首

うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば

春日遅々にして、そうこう正に啼く。悽惆の意、歌にあらずしてははらひかたきのみ。よりて、この歌を作り、もちて締緒をのぶ。ただしこの巻の中に作者の名字をいはずして、ただ、年月処々、縁起のみをしるせるは、皆大伴宿禰家持が作る歌詞なり。

巻第十九 四二九〇 四二九一

2010/08/01(日) 23:37:08 [万葉集の勉強]

二十三日に、興に依りて作る歌二首

春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影にうぐいす鳴くも

我がやどのい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも

巻第十九 四二八五~四二八七

2010/07/31(土) 00:07:22 [万葉集の勉強]

十一日に、大雪降り積みて、尺に二寸有り。よりて拙懐を述ぶる歌三首

大宮の内にも外にもめづらしく降れる大雪な踏みそね惜し

御園生の竹の林にうぐいすはしば鳴きにしを雪は降りつつ

うぐいすの鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか

巻第十九 四二二七 四二二八

2010/07/29(木) 02:52:53 [万葉集の勉強]

大殿の この廻りの 雪な踏みそね しばしばも 降らぬ雪ぞ 山のみに 降りし雪ぞ ゆめ寄るな 人や な踏みそね 雪は

反歌

ありつつも見したまはむぞ大殿のこの廻りの雪な踏みそね

右の二首の歌は、三形沙彌、贈左大臣藤原北卿が語をうけて作りよむ。これを聞きて伝ふるは、笠朝臣子君。また後に伝へ読むは、越中の国の掾久米朝臣広縄ぞ。

巻十九 四一四四 四一四五

2010/07/27(火) 23:39:35 [万葉集の勉強]

帰雁を見る歌二首

燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く

春まけてかく帰るとも秋風にもみたむ山を越え来ずあらめや



前者の歌は、薄田泣菫に全く同じ趣向の近体詩があったと思うが、すぐには出てこない。

巻第十八 四一二三 四一二四

2010/07/26(月) 23:17:51 [万葉集の勉強]

この見ゆる雲ほびこりてとの曇り雨も降らぬか心たらひに

雨ふるをほく歌一首

我がほりし雨は降りきぬかくしあらば言挙げせずとも年は栄えむ

巻第十八 四一二二

2010/07/25(日) 23:50:41 [万葉集の勉強]

天平感宝元年の閏の五月の六日より以来、小旱を起こし、百姓の田畝やくやくにしぼむ色あり。六月の朔日に至りて、たちまちに雨雲の気を見る。よりて作る雲の歌一首。

 天皇の 敷きます国の 天の下 四方の道には 馬の爪 い尽くす極み ふなのへの い果つるまでに いにしへよ 今のをつつに 万調 奉るつかさと 作りたる その生業を 雨降らず 日の重なれば 植えし田も 蒔きし畑も 朝ごとに 凋み枯れゆく そを見れば 心を痛み みどり子の 乳乞ふがごとく 天つ水 仰ぎてぞ待つ あしひきの 山のたをりに この見ゆる 天の白雲 海神の 沖つ宮辺に 立ちわたり との曇りあひて 雨も賜はね

巻第十八 四一一一

2010/07/24(土) 23:46:14 [万葉集の勉強]

橘は花にも実にも見つれどもいや時じくになほし見が欲し



時じくのかくのこのみ:橘の実をほめたたえた言葉。

柑橘類は、古代の日本人にとっても欠くことができないものであったことが伺える。

巻第十八 四〇九四

2010/07/23(金) 23:45:50 [万葉集の勉強]

……海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言だて……

巻第十八 四〇七五

2010/07/22(木) 23:17:23 [万葉集の勉強]

所心歌

相思わずあるらむ君をあやしくも嘆きわたるか人の問うまで



所心歌:物に拠らず、じかに思いをのべる歌

巻第十七 四〇一一

2010/07/21(水) 00:42:23 [万葉集の勉強]

……狂れたる 醜つ翁の 言だにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を 鳥狩すと 名のみをのりて 三島野を そがひに見つつ 二上の 山飛び越えて 雲隠り かけりいにきと 帰り来て しはぶれつぐれ をくよしの そこになければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ 息づきあまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの をてもこのもに 鳥網張り 守部を据えて ちはやぶる 神の社に 照る鏡 しつに取り添え こひのみて あが待つ時に 娘子らが 夢に告ぐらく 汝がこうる そのほつ鷹は まつだえの 浜行き暮らし つなし捕る 氷見の江過ぎて たこの島 飛た廻り 葦鴨の すだく古江に 一昨日も 昨日もありつ 近くあらば いま二日だみ 遠くあらば 七日のをちは 過ぎめやも 来なむ我が背子 ねもころに な恋いそよとぞ いまに告げつる

巻第十七 四〇一一 (その1)

2010/07/19(月) 02:09:42 [万葉集の勉強]

放逸れたる鷹を思ひて夢見、感悦びて作る歌一首

大君の 遠の朝臣ぞ み雪降る 越と名におへる 天さかる 鄙にしあれば 山高み 川とほしろし 野を広み 草こそ茂き 鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 鵜養がともは 行く川の 清き瀬ごとに 篝さし なづさひ上る 露霜の 秋に至れば 野も多に 鳥すだけりと ますらをの 友誘いて 鷹はしも あまたあれども 矢形尾の あが大黒に 白塗の 鈴取り付けて 朝猟に 五百つ鳥立て 夕猟に 千鳥踏み立て 追ふごとに 許すことなく 手放れも をちもかやすき これをおきて またはありがたし さ慣れへる 鷹はなけむと 心には 思いほこりて 笑まひつつ 渡る間に……

巻第十七 四〇〇一 四〇〇二

2010/07/16(金) 23:10:32 [万葉集の勉強]

立山に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし

片貝の川の瀬青く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む

巻第十七 (三九九九)

2010/07/16(金) 02:26:01 [万葉集の勉強]

昨暮の来信は、むがしくも晩春遊覧の詩を垂れたまひ、今朝の累信は、かたじけなくも相招望野の歌をたまふ。一たび玉藻を看るに、やくやくに鬱結をのぞき、二たび秀句をうたうに、すでに愁緒をのぞく。この眺玩にあらずは、たれかよく心をのべむ。ただしわれ、稟性彫ること難く、闇心みがくことなし。幹をとりて毫をくたし、研にむかひて渇くことを忘る。終日目流すとも、これを綴ることあたわず。いふならく、文章は天骨にして、これを習うこと得ずと。あに字を探り韻を勒して、雅編に叶和するにあへめや。はた、鄙里の小児に聞えむ。古人は言に酬いずといふことなし。いささかに拙詠をつくり、つつしみて解笑になぞふらくのみ。

七言一首

杪春の余日媚景麗しく、
初巳の和風払いておのづからに軽し。
来燕は泥をふふみいへをほきて入り、
帰鴻は蘆を引きとおくおきに赴く。
聞くならく君はともに嘯き流曲を新たにし、
禊飲にさかづきをうながして河清にうかぶと。
良きこの宴を追い尋ねまくほりすれど、
なほし知るやまいにそみて脚れいていすることを。



闇心:(あんしん)愚かな心。

巻第十七 (三九九五)

2010/07/14(水) 02:24:13 [万葉集の勉強]

七言、晩春三日遊覧一首 (併せて序)

上巳の名辰、暮春の麗景なり。桃花は瞼をてらして紅を分かち 柳色は苔を含みて緑を競う。時に、手を携わりはるかに江河の畔を望み、酒を訪らひとおく野客の家によきる。すでにして、琴性を得、蘭契光をやわらげたり。ああ、今日恨むるところは、徳性すでに少なきことか。もし寂をうち章をふふまずは、何をもちてか逍遥の趣をのべむ。たちまちに短筆におおせて、いささかに四韻をしるすという。

余春の媚日は怜賞するによく、
上巳の風光は覧遊するに足る。
柳伯はかわに臨みてげん服を斑かにし、
桃源は海に通いて仙舟をうかぶ。
雲罍桂をくみて三清の堪、
羽爵人をうながして九曲の流。
縦酔陶心彼我を忘れ、
酩酊し処としてえん留せずといふ事無し。

三月の四日、大伴宿禰池主



媚日:なまめいた日差し
縦酔:ほしいままに酔うこと

漢詩なので、国歌大観番号は振られていないらしい。この番号は仮のもの。

巻第十七 三八六七

2010/07/10(土) 03:38:33 [万葉集の勉強]

たちまちに芳音を辱みし、幹苑雲を凌ぐ。更に倭詩を垂れ、詞林錦をのぶ。もちて吟じもちて詠じ、よく恋緒をのぞく。春はたのしぶべく、暮春の風景もともあはれむべし。紅桃灼灼、戯蝶は花を廻りて舞い、翠柳依依、嬌鶯は葉に隠れて歌う。楽しぶべきかも。淡交に席をちかづけ、意を得て言を忘れる。楽しきかもうるわしきかも。幽襟めづるに足れり。あにはからめや、蘭惠くさむらを隔て、琴用いるところなからむとは。空しく礼節をすぐさば、物色、人を軽みせむかとは。怨むるところここにあり、黙してやむことあたはず。俗の言葉にいはく、藤をもちて錦につぐという。いささかに談笑になぞふらくのみ。

山峡に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ



芳音(ほういん):ありがたいお便り。
依依:なよなよとして



前出の家持に対する返信。やはり詩言葉が良いので引用した。

巻第十七 三九六五

2010/07/09(金) 00:51:18 [万葉集の勉強]

守大伴宿禰家持、掾大伴宿禰池主に贈る歌二首

たちまちに汪疾に沈み、塁旬痛み苦しむ。百神をこい恃み、かつ消損すること得たり。しかれども、なほし身体疼羸、筋力怯軟なり。いまだ展謝にあへず、系恋いよいよ深し。今し、春朝の春花、にほひを春苑に流し、春暮の春鶯、声を春林に囀る。この節候にむかひ、琴もてあそぶべし。興に乗る感ありといへども、杖をつく労に耐えず。独り帷幄の裏に臥して、いささかに寸分の歌を作る。軽々しく机下に奉り、玉頤を解かむことを犯す。その詞に曰く、

春の花今は盛りににほふらむ折りてかざさむ手力もがも



疼羸(どうるい):病疲れ
怯軟(きょうぜん):なよなよして力が抜けること
展謝:お礼を言いに参上すること

※この詞言葉の格調高さが気に入ったので引用した。

巻第十七 三九二二 三九二三 三九二五 三九二六 

2010/07/08(木) 00:52:56 [万葉集の勉強]

左大臣橘宿禰、詔に応える歌一首

降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか

紀朝臣清人、詔に応ふる歌一首

天の下すでに覆ひて降る雪の光を見れば貴くもあるか

……

葛井連諸会詔に応ふる歌一首

新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは

大伴宿禰家持、詔に応ふる歌一首

大宮の内にも外にも光るまで降らす白雪見れど飽かぬかも

万葉集 巻第十六 三八八七~三八八九

2010/07/07(水) 03:03:12 [万葉集の勉強]

おそろしき物の歌三首

天にあるやささらの小野に茅草刈り草刈りばかに鶉を立つも

沖つ国うしはく君の塗り屋形丹塗りの屋形神の門渡る

人魂のさ青なる君がただひとり逢へりし雨夜の葉非左し思ほゆ

巻第十六 三八八六

2010/07/05(月) 00:13:11 [万葉集の勉強]

おしてるや 難波の小江に 蘆作り なまりて居る 葦蟹を 大君召すと 何せむに 我を召すらめや 明けく……

……あしひきの この片山の もむ楡を 五百枝剥き垂れ 天照るや 日の異に干し さひづるや 韓臼に搗き 庭に立つ 手臼に搗き おしてるや 難波の小江の 初垂を からく垂れ来て 陶人の 作れる瓶を 今日いきて 明日取り持ち来 我が目らに 塩塗りたまひ きたひはやすも きたひはやすも

 右の歌一首は、蟹のために痛みを述べて作る。



前出の鹿の歌が山の幸を詠ったものであるのに対し、この蟹の歌は海の幸を詠ったもの。日本文化の象徴体系の中において、鹿には神聖な動物とされているようだが、蟹が聖なる動物であるとはあまり聞かない。鹿と蟹の並列、対比に何らかの意味があるのだろうか? 文化史とか、歴史民俗学といった学問の領域だと思われる。

巻第十六 三八八五

2010/07/03(土) 00:00:45 [万葉集の勉強]

乞食人が詠う歌二首

……さを鹿の 来立ち嘆かく たちまちに 我は死ぬべし 大君に 我は仕えむ 我が角は み笠のはやし 我が耳は み墨坩 我が毛らは ますみの鏡 我が爪は み弓の弓弭 我が毛らは み筆はやし 我が皮は み箱の皮に 我が皮は み箱の皮に 我が肉は み膾はやし 我が肝も 我がみげは み塩のはやし 老い果てぬ 我が身一つに 七重花咲く 八重花咲くと 申しはやさに 申しはやさに

右の歌一首は、鹿のために痛みを述べて作る。 



人間に狩られ捕り尽くされる鹿の歌。「もののけ姫」の遠い元ネタのひとつか。皇室崇拝の裏面に、古代日本人の自然崇拝、アニミズム、そしてある種のエコロジー(もったいない思想)が伺える。アイヌともどこか共通するものがあるようにも思える。

巻第十六 三八五三 三八五四

2010/07/02(金) 03:10:21 [万葉集の勉強]

痩人を嗤咲ふ歌二首

石麻呂に我れ物申す夏痩せによしといふものぞ鰻捕りめせ

痩すも痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻を捕ると川に流るな

右は、吉田連老、字は石麻呂といふものあり。いはゆる仁敬が子なり。多くくらい飲めども、形飢饉に似たり。これによりて、大伴の宿禰家持、いささかにこの歌を作りて、もちて戯咲を為す。

巻第十六 三八四九 三八五〇

2010/06/30(水) 06:03:00 [万葉集の勉強]

世間の無常を厭う歌二首

生き死にの二つの海を厭はしみ潮干の山を偲ひつるかも

世間の繁き仮蘆に住み住みて至らむ国のたづき知らずも

右の歌二首は、河原寺の仏堂の裏に、倭琴の面に在り。

巻十六 三八三八 三八三九

2010/06/28(月) 23:27:47 [万葉集の勉強]

無心所著の歌二首

我妹子が額に生ふる双六の特負の牛の鞍の上の瘡

我が背子がとふさきにするつぶれ石の吉野の山に氷魚ぞさがれる

右の歌は、舎人の親王、侍座におおせて曰く「もし由る所なき歌を作る人あらば、賜うに銭帛をもちてせむ」といふ。時に、大舎人、安倍の朝臣子祖父、すなわちこの歌を作りてたてまつる。すなはち、募れる物銭、二千文をもちて賜う。



無心所著:個々の言葉の意味(心)がつきあわず、内容の伴わない歌。
特負(ことい):力の強い雄牛。

巻十六 三八三五

2010/06/27(日) 00:07:20 [万葉集の勉強]

佞人をそしる歌一首

奈良山の児手柏の両面にかにもかくにも佞人が伴

右の一首は、博士、消奈行文大夫作る。

巻第十五 三六六八

2010/06/26(土) 05:54:07 [万葉集の勉強]

筑前の国の志麻の郡の韓亭に到り、船泊りして三日を経ぬ。時に夜月の光、こうこう流照す。ひさしくこの華に対し、旅情悽噎す。おのもおのも心緒を陳べ、いささかにつくる歌六首。

大君の遠のみかどと思えれど日長くしあれば恋いにけるかも



悽噎:悲しみで一杯

巻第十五 三六二七

2010/06/19(土) 05:40:17 [万葉集の勉強]

属物発思の歌一首

朝されば 妹が手に巻く 鏡なす 御津の浜びに 大船に 真楫しじ貫き ……



属物発思:景物に触れて感慨を発した歌。

巻第十一 二四九七

2010/06/18(金) 00:18:54 [万葉集の勉強]

隼人の名負う夜声のいちしろく我が名はのりつ妻と頼ませ



隼人の有名な夜警の声、その大きな声のように、はっきりと私の名は申し上げました。
この上は、私を妻として頼みにして下さいませ。

濁りのない、純粋でストレートな愛の告白の歌。すがすがしい。

巻第十一 二三六八

2010/06/16(水) 01:17:10 [万葉集の勉強]

正述心緒

たらちねの母が手離れかくばかりすべなきことはいまだせなくに



正述心緒:物に寄せずに直接自分の思いを述べた歌。

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