ボードレール「忘却の河」より

2013/06/18(火) 00:22:55 [引用▼海外]

……
君が肌の移り香の、籠りてくゆる裳かな、
嗟、その中に、痛むわが、頭を深く埋めつつ、
萎れし花をさながらに、われ、ひたぶるに嗅ぎ入らむ、
滅び失せたるわが恋の、酸味帯びたる甘き香に。

眠らんとするわが希ひ、生きんとするを凌ぐかな、
うましきことの死にまがふ熟睡のなかにひたりつつ、
銅のごと美はしく光沢照り映ゆる肉体に
われ、悔もなく、接吻を、心ゆくまで撒き散らさむ。

わが嗚咽をば和らげて跡かたもなく呑み込むに
君が臥所の深淵にまされるものの世にあらじ、
効験しるき忘却は口のほとりに住まひして、
「忘れの河」は接吻のさなかに淙と流れたり。
……



斎藤「近代フランス詩集」より
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大手町サンケイビルのワゴン村

2013/06/17(月) 20:22:43 [【12-13】オレンジをアップデート]

 昼食時のオフィス街に現れて各種飲食物を提供するワゴン車の集団、いわゆる「ワゴン村」の集住地としては、有楽町の東京国際フォーラムが最も有名で、大分前の作品で私も取り上げたことがあるが、大手町産経新聞社前広場にも、規模はかなり小さいが同種の空間が存在することを初めて知った。販売している料理は多種多様だが、どの車もその原型は類似した形状のステップワゴンだ。いずれも改造を施して、調理設備用のガス管や換気用の配管を天井に搭載している。同じ目的のために同じ改造を行ったのだから、改造後の形状も概ね似たようなものになるのは当然なのだが、ただその外観だけはそれぞれに個性を発揮し、自己主張を行っている。その色彩こそが、独立自営業者としての彼らの矜持を表現しており、生活者としての彼らのささやかな夢の具象化であり、自己顕示なのである。また巨大企業の集住する鈍色のオフィス街にカラフルさを与えるという、ある種の景観上の美的な使命も帯びているのかもしれない。
 けれどもそこで売られている弁当類は、場所代の分も上乗せされているのかやはり割高なので、結局昼食は近隣高層ビルの地下街を探索して見つけた、メキシコ料理屋の弁当にした。



 大手町の北辺には、首都高の高架が東西に走っている。山手線・京浜東北線・中央線・東北新幹線の各JRの線路と、丁度垂直に交差する位置関係だ。この首都高の高架から北が神田、南が大手町だ。大手町高層ビル街は、この高架線を越えて北に分布を広げることはない。
 ああ、これは、西武池袋線だな。池袋~椎名町間における、西武池袋線と類似した境界線としての機能を、この首都高の高架は果たしているのだなと直感した。(かつて泉麻人が指摘したように)豊島区の、山手線のすぐ外側において、西武池袋線は北の「西池袋」と、南の「目白」の二つのエリアを截然と分割する機能を果たしている。別に線路一本で、街の全てがそこまで劇的に変わるわけでもなく、現実には西池袋にあるようなボロ屋、ボロアパートなら、目白四丁目にもあるのだが、記号的・イメージ的には、そのような境界線として機能してしまっている。
 この高架線も、まあそれと似たようなものなのだろう。神田といえば、落語に出てくるいわゆる江戸っ子、江戸の町民の住む下町だ。大手町高層ビルの周辺に点在する史跡標の説明文を読んでみると、ある場所はかつての大名屋敷であり、またある場所は江戸幕府の行政施設であったりする。それらの武家屋敷の周辺を、下町から来た行商人が巡ることもあったのだろう。有名巨大企業が集住する高層ビルの足元に、自営業者のワゴンが立ち並ぶのも、それと同じような風景なのだろう。

大手町サンケイビル前ワゴン村01

大手町サンケイビル前ワゴン村02


ボードレール「虚妄を愛す」より

2013/06/13(木) 00:44:33 [引用▼海外]

そも君は、妙にゆかしき味はいの秋の果実か、
はふり落つる涙の露を待ち侘ぶる凶しき甕か、
遥かなるオアシスの夢よびさます薫れる風か、
愛撫に似たる枕か、さてはまた、花盛る籠か、

われは知る、絶えて貴き秘密を蔵むることなく
しかもなほ、深き憂愁を湛へたる、眼のあるを。
珠玉なる宝石の筐、形見なき装身の牌、
おお空よ、汝にまして、奥深く、空虚の眼。

さはれこの、表面の相のみにして、足るにあらずや、
真実を避くる心に慰みを添へむためには。
抑も君が、愚かしさ、はた、情なさの、何するものぞ。
仮面、善し、虚飾、また善し、われ君が美をば拝む。



斎藤『近代フランス詩集』より

ムッシュくまおの中の人

2013/06/12(水) 20:39:34 [【12-13】オレンジをアップデート]

 ぬいぐるみの中に入るバイトは、これまでに自分が経験した仕事の中でも過酷なものであった。「ムッシュくまお」という、薬品会社のキャラクターのぬいぐるみの中に入ったことがある。暑くて、重くて、座ることも出来ない。大して有名でも無く、別に可愛いキャラクターでもないのだが、それでも子供達には人気があって、包囲され抱きつかれ押される。休憩時間になって、控室に引っ込もうとしてもついてこようとするので、追い払うにも一苦労だ。とにかく大変な仕事ではあったが、何とかこなしているうちに、その薬品会社の偉い人に気に入られて、直接雇ってくれることになった。派遣会社を経由して貰っていたそれまでのものより、給料が少し上がったので良かった。
 ある仕事の休憩時間が一緒になったある男性が、その職場とは全く関連がないそんな経験談をしてくれたのだけれど、そもそも「ムッシュくまお」なるキャラクターを私は見たことも聞いたこともない。そのように返答すると、薬品会社の人が撮影してくれたというぬいぐるみの画像をガラケーで見せてくれた。水色と黄緑色の中間のような余りセンスの良くない体色をした、白目の大きい熊であった。けれどもその人工的ないかにもケミカルっぽいカラーセンスによって、化学薬品メーカーらしさがいささかなりとも表現されているのかもしれないと、努力して好意的に解釈してみることにした。

ゴーチエ「蝶」

2013/06/05(水) 01:19:32 [引用▼海外]

雪のいろの蝶のむれ
海原の上を舞ひすがふ。
白き胡蝶よ、いつの日か
われ、青空を進み得ん。

君は知れるや、たをやめよ、
黒玉の眼の、舞姫よ、
われに胡蝶の翅あらば
いづかたさして飛びゆかん。

薔薇ひとつだに口ふれで、
われ、谷わたり、森こえて、
夢の華かと綻べる
脣にこそ、絶え入らん。



斎藤磯雄『近代フランス詩集』より

水色の捨てモンスターは、さっき拾った。

2013/06/04(火) 23:27:36 [【12-13】オレンジをアップデート]

 阿佐ヶ谷駅南口ディラ前で路上活動をしていると、通行人のカップルの女の手提げ鞄にぶら下がっていたぬいぐるみが路上に転がり落ちた。チェーンが切れたようだ。二人は気付かず、足早に青信号の横断歩道をパール商店街に向かって渡り人ごみの中に姿を消してしまう。哀れに思って拾い上げた。 
 フォルムは球形に近い。淡い水色をした体色から、まあドラクエスライムでは無いことは遠目からでもわかっていた。(スライムブルーはもっと濃い青色だろう。)ドラクエのモンスターだとしたらまあホイミスライムポケモンだとしたらマリルあたりか、まさか今更ぴちょん君ということはないだろうと思って改めて見ると、そのどれでも無い。全く見知らぬキャラクターである。
 タグを見ると「パズドラ」のロゴがあるので、ああ、これが最近流行りのパズドラのキャラクターかと了解した。私は未だにガラケーの愛用者でスマホは所有しておらず、同タイトルも全く遊んだことが無い。当然このキャラについても何も知らない。
 ではあるが、既に一度手にとってしまった以上は、再び見捨てるのも忍びない。名前も知らないこの水色のモンスターは、特に鳴いたり喋ったりはしない。仲間にして欲しいとか、将来は人間になりたいなどという自己主張を行うこともない。何よりも触手がない。そしてもちろん、周囲の存在を癒すような魔法の力も持っていない。
 とは言うものの、自分自身を省みれば、別にどこかの王国直属の特別職国家公務員ではないし、全身ピンクの衣装を身に着けて街を闊歩するような堂々たるファションセンスの持ち主でもないし、導かれしもの達の一員でもなんでもないのだが。
 ただ、この街のこの瞬間において、二人とも一人で居るというだけだ。
 だからまあ良いかと思うことにして、その水色の生物を自分のリュックサックの脇に結び付けた。



球形の名前も知らないそのキャラの視線の先には僕が居たから



水色の捨て猫は、見ない。
水色の捨てモンスターは、さっき拾った。

ゴーチエ「ラメント」より

2013/06/04(火) 14:18:29 [引用▼海外]

ああ、絶えてわれ、またと行かじな
墓のほとりに「ゆふべ」の闇を纏ひくるころ、
聴かじな、われは、青白き鳩、
水松の枝に、かの歎かひの歌うたへるを。



斎藤磯雄『近代フランス詩集』より

おいっ! 丸ビルッ!

2013/06/04(火) 00:22:17 [【12-13】オレンジをアップデート]

おいっ!
丸ビルッ!

……今日はこれぐらいにしといたるわ!

丸の内Kitteの朝から夜

2013/06/03(月) 21:24:58 [【12-13】オレンジをアップデート]

 東京中央郵便局跡地に出来た新しい高層ビルを、早朝から探索する。飲食店は地下一階の喫茶店しか開いていないので、そこで朝食にする。しばらくすると、左隣の席にスーツ姿のキャリアウーマンが着席して、おそらくはバイオと思われるノートパソコンを操作し始める。真剣だ。右隣にも、カジュアルファッションだが、やはりそれなりの職業についていると思われる女性がやってきて、アイポッドとタブレット端末を接続してやはり何かの作業をしている。その両者に挟まれた自分は、特に必要性も無いツイートを朝からツイッターに書き込んで、ネット資源の浪費に貢献している。
 プロント系列のこの喫茶店は電源フリーだ。
 この地下一階には、この時間から長蛇の列が出来ている。すごい人だ。一体何なのかと聞くと、八十八カ所巡りの文化イベントの当日券の行列なのだそうだ。なるほど、確かに老人の姿が多い。比率的には、老人が圧倒的に多いのだが、その中に稀に若い女が混ざっているのは何だか不思議だ。若い男はいない。
 


 昼過ぎに再び、この高層ビル内の商業施設「Kitte」を覗きに来る。お遍路さんイベントの当日券を買いそびれた老人が、周辺に立っている係員を捕まえて怒りを叩きつけている。一組ではない。複数だ。クレームに対応している係員達も、あるいはそのため「だけ」に雇われたのかもしれない。それほど魅力的なイベントなのかと思って、フライヤーやチラシの類はないのかと尋ねてみると、それすら完全にソールドアウトだと言う。



 夜。Kitteの屋上テラスから、東京駅の八重洲側を望む。高層ビル、グランサウスタワーの透明エスカレーターが繰り返す垂直方向の光の運動と、出入線する東海道新幹線から放たれる水平方向の光の運動とが、巨大な十字のように見える瞬間がある。現在の日本のテクノロジーが到達している巨大な領域に圧倒させられる。 

ラマルチーヌ「谷間」より

2013/06/03(月) 11:20:11 [引用▼海外]

われ世にありてあまりに見、あまりに感じ、愛したり。
「忘却の河」の静けさを、われ生きながらとめ来る。
うましき郷よ、わがために、かの忘却の岸辺たれ、
今より後は忘却こそ、わが究極の幸なれば。

今し心はやすらひて、魂もまた黙しあり。
さだかにあらぬ耳もとに微けき風の運びくる
遠く離れる物の音の嫋嫋として果つるごと、
夜の杳かなるざわめきも、此処に到りて絶え入りつ。

此処よりわれは浮雲の彼方に眺む、人の世の
わが身にとりて過去の影に沈めるさまなるを。
独り、恋のみ、なほありて、たとへば夢の消え失せて
目ざめに一つ残りたる、濃き映像にさも似たり。



斎藤磯雄『近代フランス詩集』より

【オープンマイクイベント】「Tamatogi」Vol.19」に参加して来ました【渋谷】

2013/06/03(月) 00:21:36 [お知らせ・近況報告]

2013年6月1日、渋谷円山町のバー「Space turbo Bar&Gallery」において開催された
オープンマイクイベント「Tamatogi」Vol.19に参加して来ました。


私は自著『福島の向日葵に捧げる歌』から、
散文「そして無人のディズニーランド」を朗読しました。

Space turbo Bar&Galleryさんのサイトはこちらです。
 ↓↓↓↓
http://www.kensscratch.com/gallery-space-turbo.html

 
主催者のお二人、また私の拙いパフォーマンスに耳を傾けて下さった方々、
また当日私の著書をお買い上げ下さった方に、改めて御礼を申し上げます。

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