坂の上でビルの谷間。
交差点の四方向の角のうち、三方にはそれぞれに現代的な相貌の高層ビルが建っているが、平面グラフに例えると第二象限に該当する北西方向の角だけは、古ぼけた茶壁の東京メトロの低層ビルが居座り続けている。おそらくは前世紀から、つまりは帝都高速度交通営団の時代からこの建物はこの姿をしてこの場所にあったのだろう。上空への進化を行わないのは、地底をメインフィールドとしている地下鉄会社の本能故か?
高層ビルと地下鉄駅と幹線道路だけのこんな無機質な空間においても、路上詩人は路上活動を試みる。敢えて無謀に挑戦するつもりで。予め敗北するつもりで。自身の無謀さを、自分自身に対してただ再確認したいがために。
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ビル群を巨人に見立て無謀なる闘い止めず春の曇天
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風が強い。
売れる。
購入者のその老婆から、自分の娘は女子医科大学を出て医者になったという自慢話を聞かされる。この交差点の山手通り沿いの幅が広い歩道には、時折ビッグイシュー売りも姿を見せるという。
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