越谷とカンザス

2013/12/16(月) 21:41:38 [【12-13】オレンジをアップデート]

 埼玉県越谷市は、都心に通勤可能な近郊に位置する、可もなく不可もない、ごく普通のベッドタウンである。夏の終りのある午後に突如発生して、その住宅地を破砕して回った竜巻のニュースを見て、高校一年の時の、陰険な英語教師を思い出した。当時私達が使用していた英語の教科書のある章に『オズの魔法使い』が抄録されていた。
 『オズの魔法使い』の主人公の少女、ドロシーが住むカンザスという場所について、彼女はこのように解説した。カンザスというのは、アメリカにおける埼玉県のような土地です。海の無い内陸で、抑揚が無く平坦で、砂埃が多く、都会の人からは常にダサイ、ダサイと一段下に見られる。そういうニュアンスを含んだ固有名詞なんですと。当時の私には、その真偽を判断することは出来なかったが、小柄で、童顔なのに皺の入った、年齢不詳の、邪悪な小人のような相貌の女教師の、いかにも人を見下したその口調に、生理的に反感を覚えた。自分達が今居るこの街なんて、埼玉よりも遥かに格下の、狭小で水不足で湿度と不快指数ばかりが高い、西日本の一地方都市に過ぎないじゃないか。
 そうして、その反感故に、女教師のその発言もまた、長く記憶されることとなった。
 その女教師は、実は正しかったのかも知れない。カンザスは、やはり埼玉のような土地だったのかも知れない。カンザスから脱出することを夢見ていたドロシーは、竜巻の力によって遠い世界へ飛ばされたけれど、埼玉から脱出することを夢見る現代の無名の少女も、竜巻の力に秘かに大きな希望を寄せているかもしれない。
 そんな少女が居たら、それは間違いだと叱責したい。竜巻の力に期待する必要なんか、全くないだろうと指摘したい。越谷からは、電車一本で、ディズニーランドに行けるじゃないか。東京スカイツリーにも行けるじゃないか。浅草雷門にも行けるじゃないか。六本木ヒルズにもいけるじゃないか。地元には、レイクタウンがあって、巨大なイオンもあるじゃないか。何を焦って、竜巻に巻き込まれたいなんて願うのか。
 私には、少女崇拝の念が特にないので、優しくもなく、厳しくもなく、ただ、一人の良き先輩として淡々と、そのように教えたい。興奮することも、甘言を弄することも、父権的・男根主義的に偉ぶることも全くない、理性的かつ知的かつ冷静な存在として、少女達の前で振舞いたい。そうして現実を、現実そのままに、理解させたい。
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